論文の紹介
田口文章・須貝保徳(2007) 平均家族の二酸化炭素排出量
環境技術 36巻4号: 57-61.
1992年の地球環境サミット(リオ・デジャネイロで開催)で、
大気中の温室効果ガス(炭酸ガス等)の濃度を安定化させるために、気候変動枠組条約が取り決められ、1994年に発効した。この条約の目的を達成するために、議論が重ねられ、京都で開催されたCOP3(第3回締約国会議)で京都議定書が採択された。内容は、
先進国等に対し、温室効果ガスを1990年比で、2008年〜2012年に日本が6%、米国が7%、EUが8%削減することを義務づけた。その後、米国が離脱したが、ロシア等の批准により発効要件の締約国数を超え、
京都議定書は2005年2月に発効した。
環境省発表の2005年度の日本の温室効果ガスの総排出量は、基準年の1990年比で7.8%上回わり、削減目標の6%と合わせると13.8%オーバーすることになる。この値から、目標年までに達成する予定の森林等による吸収3.8%、京都メカニズム(注)による削減1.6%を上記の13.8%から差し引くと、
現時点で2008年〜2012年までに8.4%の排出削減が必要となっている(
環境省HP)。
なお、
三重県は2010年度までに温室効果ガス排出量を1990年比6%削減することを目標とする「
チャレンジ6」を策定したが、本年3月にこの計画は達成が困難であるとして見直し、2010年度における森林吸収源を含めた削減率を3%と
改訂した。
和歌山県は、2010年度までに排出量を1990年比3.9%削減する目標を策定した(
和歌山県地球温暖化対策地域推進計画:2006年3月)。
奈良県は、炭酸ガスの排出量を2010年度において、2002年度比で10%削減することを目標に掲げている。
全国の排出量の削減状況を部門別に見ると、産業部門(工場等)は2.4%減(1110万t CO2)、運輸部門は1.8%減(470万t)、業務その他部門(商業・サービス、事業所)は3.8%増(860万t)、
家庭部門は4.0%増(670万t)、エネルギー転換部門(発電所等)は6.2%増(460万t)である。全部門で一層の削減努力が必要であるが、家庭部門、業務等の部門での削減が求められている。そうした中で、環境省では、「
チ−ム・マイナス6%」運動を繰り広げ、
1人1日1kg削減を目標に家庭でもできるエネルギー節約をHPで呼びかけている。
本論文は、地球温暖化防止のために炭酸ガスの排出削減が求められているものの、国民が何をどの程度協力したらいいのか曖昧であるとの問題意識から行った事例研究である。
全国平均の1.3倍の排出量となっている
北海道札幌市の木造家屋に住む架空の子供2人の平均的な4人家族をモデルとして、その炭酸ガス排出量を推定するとともに、更に、自家用車の使い方等を中心とした削減努力によって、どれだけ炭酸ガス排出量が削減できるかを試算している。
排出量の算定の対象として、父親の2500ccセダンと母親の660cc軽自動車による通勤に伴うガソリン使用量、父親の月1回の出張に伴う航空燃料等の使用量、自宅の灯油、都市ガスおよび電気使用量、化石燃料に由来するプラスチックごみの廃棄量を挙げている。
この家庭の1年間の炭酸ガス排出量は約8.7tとなるが、父親の遠距離出張がないものとすると
全国平均の5.4t(全国地球温暖化防止活動推進センター)の約1.3倍となり、本論文の試算値はほぼ妥当であろうとしている。これらを炭酸ガス排出量算定のための
排出係数(
全国地球温暖化防止活動推進センターHP)を用いて計算すると、この家族は1年間に多い順に
灯油4.41t(炭酸ガス換算量)(50.6%)、
ガソリン1.74t(20.0%)、
電気1.448t(16.6%)、
ジェット燃料0.955t(11.0%)等となっている。
削減対策として、(1)
暖房等の設定温度を変え、照明器具等のこまめな消灯、
省エネ型の家電製品への買い換えなどの省エネによってエネルギー消費の10%削減、(2)
通勤を公共交通機関であるバス等に変え、あるいは、
ガソリン消費量の少ない車に替える(長距離通勤を軽自動車に替えるなど使用法も含める)ことによって、ガソリン使用量を30〜50%削減するなどして、炭酸ガス排出量を家族全体で年間1.1〜1.3t削減(全体との比率で12〜18%削減)できることを示した。なお、著者は、買い替える車や電気製品の製造時に出る炭酸ガスや、家族が学校や病院などの公共施設で排出する炭酸ガスについては網羅していないこと、実際には札幌市では核家族化が進み、1家族平均2.2人になっていることに対する見直しなどが、今後の課題であるとしている。
本論文では、1家族が何によって、どのくらい炭酸ガスを排出しているのか、そして、どのようにすれば排出量を10%以上削減できるのかを、具体的な例で示している。環境省「
チーム・マイナス6%」で1人1日1kg削減と言われても、そのウエイトがピンと来なかったが、この論文で1家族が1年間に全国平均で5.4t(1日では14.8kg:全国地球温暖化防止活動推進センター)というデータを紹介し、本論文のデータとの関係を論じているので、1日1kgという値が少し身近になったように思われる。京都議定書で日本が約束した削減を果たしていくために、家庭部門での炭酸ガス排出量の削減が求められている時期であり、このような具体的な削減の方法を示していくことが、国民にもっと提示されてよいと思われる。
(注)京都メカニズムでは、途上国に対する炭酸ガス排出を削減するクリーン開発、先進国間の炭酸ガス排出削減の共同開発、炭酸ガス排出権取引による削減分も自国の削減率に算入できることにした。 (2007.7.14
M.M.)
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